時間の流れを

「見てみたいんだ」
 お昼ご飯を食べ終わり、使い捨ての弁当箱をくずかごに放り込んできて、甘ったるい台湾製の紅茶を飲みながら帰ってきた玻璃珠は唐突にそんなことを言った。玻璃珠は基本的に普通な奴ではあるけれど、時折発症するこの電波癖と女性には珍しいゲーム癖のせいなのか、周りにいる人間も我が強い奴らで固まっている。普通がどうとかは気にはしないタイプなので本人は全く気にしてなさそうだが。まぁ、玻璃珠の話す電波を多少なりとも受信出来る自分も「普通」というカテゴリーからは逸脱してるように見えるだろう。単純に我ながら聞き上手なだけだと思ってるのだが、玻璃珠とは中学からの縁なので麻痺している部分もあるのかも。 

「私が思うに、時間は東から西に流れてると思うんだ。その時間の流れを視覚として一日を追えたらって最近思うのよね」
太陽の位置という意味で言えば玻璃珠の仮説(?)もそんなに間違ってるわけではないと思うが、時間の流れを視覚的に見るって?朝日から逃げ続けるのか?
「それもある意味ではそうだけど、それは結局は太陽っていう基準から見た時間の具体化でしょ?私は時間の流れそのものを視覚的に見てみたいの。あやふやで抽象的なんだけど、誰にでも平等に永遠に時を刻み続ける時間の流れを」
何だか空気を掴みたいっていう願望と似たり寄ったりな・・・。
「空気は物質としてちゃんと存在するじゃない。私たちが海を手の平ですくえるのと同じように、海で一生を終える魚に手があったら確実に彼らは空気を手ですくえるよ。空気と触れ合い過ぎてる私たちが麻痺してるだけで、空気は絶対に掴める。でも時間の流れは、そのものは見えないし物質とかじゃない。だから見てみたいんだ」
あいにく自分には手の生えた魚の友達はいないので空気が掴めるものなのかは知らないが、玻璃珠の言いたいことは何となくわかったような気がしなくもない。

 しかし、そんなものを見てどうしたいんだ。
「どうこうするわけじゃないけど、えっと、例えば南極点ってあるでしょ。南極点の上に立てばそこが真南であり、そこから地面を突っ切れば真北でもあるわけだから、目の前に広がるのは360°全て純粋に東と西だけってことでしょ。そこでもし時間の流れが途切れなく廻ってるのが見えたらすごいと思わない?時間が半時計廻りに私を中心に廻り続けるんだよ!?だからただ見てみたいんだよね、時間の流れ」
大層な願望の割には結局はすごそうだから見てみたいって・・・。

・・・まぁ、そんな玻璃珠だからこそ自分もこれまでついてきていたのだけれど。意味はわからないけれど、意味がある必要はないのだし。
恐らくは、玻璃珠の存在も。
「ん?どうしたの、急に真顔になって」
いや、何でもないよ。相変わらず玻璃珠の考えは突飛でヘンだなーって思ってただけ。
「もーそれも聞き飽きたよー」

ま、何はともあれ、これからもよろしく、玻璃珠。